ミツバチ:スズメバチを窒息させる
Alexandros Papachristoforou, Agnès Rortais, Georgia Zafeiridou, George Theophilidis, Lionel Garnery, Andreas Thrasyvoulou, and Gérard Arnold
Smothered to death: Hornets asphyxiated by honeybees
Curr Biol 17: R795-796

 ニホンミツバチが天敵であるオオスズメバチを集団で取り囲み、その限界温度の僅かな差を利用して「蒸し殺す」ことは近年では有名になった(ご存知ない方はこちら)。ミツバチにとってスズメバチというのは恐ろしい存在であり、様々な適応がみられる(以前のエントリで別の例を紹介した)。

 上記論文ではセイヨウミツバチの亜種であるApis mellifera cypriaがオリエントスズメバチVespa orientalisを取り囲んで殺すメカニズムを報告している。

 このミツバチはスズメバチを蒸し殺しているわけではないらしい。両者の高温限界に違いは無く、50℃程度である。また、蜂球(ミツバチがスズメバチを取り囲んでできる球)内の温度は44℃程度とそれより低い。44℃程度の温度でも長時間(平均二時間以上)であればスズメバチは死ぬが、蜂球内では一時間弱で死んでしまう。何か熱以外の悪条件が蜂球内には存在するということになる。

 ミツバチはスズメバチを刺し殺しているわけでもないことは死体をみれば判る。では、どうやって殺しているのだろうか。

 スズメバチは腹板の間に呼吸のための気門を持つ。腹部を伸縮させてスズメバチはガス交換を効率よく行っているが、縮んだ状態では気門は腹板に隠れてしまう。この状態が続くと、効率よく呼吸ができないことを、著者らはスズメバチの腹板の動きを物理的に制限することで明らかにした。では実際の蜂球の内部では、腹部を伸ばすことが制限され、気門が塞がれることでスズメバチは死に至っているのだろうか。

 著者らは巧みな実験でその点を検証した。腹板の間にプラスチックブロックを挿入し、身動きできない状態でも気門の開口が確保される状態でミツバチに囲ませたのだ。その結果、通常であれば一時間以下で死んでしまうスズメバチは、ブロックの挿入によって二時間以上生きることができた。

 恐らく蜂球内の温度上昇は無意味ではなく、スズメバチの代謝を上昇させることで窒息を促進させる効果があると考えられている。オリエントスズメバチは暑い地方に生息し、その高温耐性は高い。ニホンミツバチがとっているような熱殺戦略は採用できなかったが、その代わりに窒息戦略を採用したのではないかと著者らは考えているようである。一方、状況を考えるとニホンミツバチの蜂球内でも「窒息」は起こっている気がする。今後の検討が望まれる点である。

 どうでもいいことだけど、以前パキスタンでオリエントスズメバチを捕らえたときにはその「オリエント風の」デザインにえらく感動したものだ。異論も多いと思うし、デンパだと思われると困るのだけれど、生き物というのはやはりその土地の「雰囲気」を纏うものだと思う。



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by g-hop | 2007-09-18 11:59 | 昆虫関係論文 | Trackback(1) | Comments(2)
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Tracked from Do you think.. at 2007-09-18 20:00
タイトル : スズメバチを窒息死させるミツバチ
LiveScienceのニュース(9/17)から。Surprise Strate...more
Commented by complex_cat at 2007-09-19 17:55
ネコ科の肉食獣も,確実で能率の良い殺し方として,窒息死は基本戦略ですよね。集団で襲えて,仕留めなくても肉を咬み千切ることが出来るイヌ科はあまりやりませんが。
 「蜂球内温度は48℃,オオスズメバチの上限致死温度が44~46℃、ニホンミツバチが48~50℃で・・・」という戦略と併用していてもおかしくないかも知れません。それと,蜂球内酸素分圧低下はないのかな。密閉は無理でも,少しは落ちないでしょうか。体のでかい後輩に会うと,「俺の分の酸素まで吸うな」とからかいますが・・・なんにせよ,ニホンミツバチも合わせ技の1本の可能性もありますね。
Commented by g-hop at 2007-09-19 18:44
 私も初めにタイトルを読んだときには酸素分圧低下なのかなと思いました。ブロック挿入の実験からはその寄与は低そうですが、多少はあるのかも知れません。
 
 オオスズメバチでは気門の開口が腹部が縮んでも窒息しないようになっていたりしたらそれはそれで感動的なのですが。
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