
「フィールドの寄生虫学」という名前だが、内容は水生生物の寄生虫に限られている。以前から寄生虫は面白いと感じていて、特にフクロムシのような甲殻類の寄生者に興味があったので購入した。まだ全てを精読したわけではないのだけれど、おもしろきもちわるくてオススメの一冊。
フクロムシという生き物をご存じだろうか? 幼生の形状からフジツボに近縁であることが伺い知れるものの、成体はカニやヤドカリなどの内部寄生者である。キプリス幼生と呼ばれるフジツボと共通のステージで海中を移動し、宿主の体に付着するとケントロゴンと呼ばれるステージに分化する。ケントロゴン内ではバーミゴンと呼ばれる次のステージが分化し(といっても元の姿と関係の無い、細胞塊、あるいは細胞であるのだが)宿主の中に注入される。バーミゴンは成長し、成体になる。成体フクロムシの体はインテルナとエクステルナから成る。
インテルナと呼ばれる本体は植物の根のような形状でとても甲殻類には見えない。
エクステルナと呼ばれるカニの腹部に見られる器官はフクロムシの生殖器官であり、インテルナと繋がっている。精巣と卵巣を併せ持つことから長らく雌雄同体であると考えられてきたが、実際にはエクステルナに雄のキプリス幼生が入り込んで精巣に分化することが明らかになっている。
エクステルナの形状は付いている場所的にもカニの卵塊のようでもあり、実際にカニは卵のようにエクステルナを清掃する。雄のカニに寄生したフクロムシは雄の雌化を引き起こす。これはエクステルナによる造雄腺(雄化ホルモンの合成器官)の破壊によって起こる。雌の卵巣もエクステルナによる破壊を受けるため、カニは自身の卵は作れない。神経系も生きているのが不思議なくらい破壊されていることがあるらしい。
フクロムシは自身の卵が成熟するとカニに卵を放出させる姿勢をとらせ、産卵を行う。数回の産卵で卵巣が消耗したエクステルナはカニによって食べられる。インテルナは再びエクステルナを再生させて、雄を待つ。
恐ろしく、生物学者としてはなんとも魅力的な系だと思う。今ならできることが沢山思いつくが、入手は容易ではなさそうだ。まずは実物を入手し、基礎的な実験を行うのが先決と考えて、関係している人にコンタクトをとりはじめている。自宅の空き水槽に収容することになるだろう。もし、イソガ二のフクロムシを見かけて、提供してくださるかたがいらっしゃったら、一報ください。釣り餌屋のつてと、自己採集で探してはみますが。
他にも、こちらは珍しくて実験は不可能だろうがヒメヤドリエビという寄生者もカッコいい。頭部、胸部、腹部のあるタンツルス幼生が宿主に頭部でくっつき、口針を刺した後で、胸部と腹部が取れてしまうのである。生殖腺は頭部から発生する。
はっきり言ってジオングより凄い。フクロムシもそうだが、昆虫に近縁でありながらこの目茶目茶な発生様式は何なのだ。幼生期の変態の複雑さといい、発生生物学的な珍妙さで言ったら、昆虫は甲殻類に遠く及ばない気がする。