
アゲハ幼虫模様の制御機構に関する論文がScienceに出ていた。以前にこのコーナーでの執筆をお願いしていた二橋亮君の仕事だったので、今回もお願いして原稿を書いて頂いた。
Science論文の紹介を載せてしまうと、今後、このコーナーに紹介文を投稿してくれる人がいなくなってしまいそうで怖いが、いずれにせよ、これまでに書いてくれたのは二橋くんだけなので気にしないことにした(泪)。投稿してくれるヒト、熱烈募集中です。
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チョウの翅に代表される昆虫の紋様の多様性には、多くの人が関心を持っています。最近の研究から、目玉模様などに関わるいくつかの遺伝子が同定され、さらに種間の紋様の違いは、紋様に関わる遺伝子の発現を調節するシス配列の変化(つまり種間のDNA配列の違い)が大事だと考えられています。しかし、アゲハ(ナミアゲハ)の幼虫のように、同一個体が紋様を大きく変化させる例も多く存在します。アゲハの幼虫は、若齢幼虫は鳥のフン紋様であるのに対して、終齢(5齢)幼虫に脱皮すると緑色の隠蔽色へと劇的な変化を見せます。この変化はどのような分子メカニズムによって生じているのでしょうか?

アゲハの紋様の変化は、脱皮を介して行われることから、最初に昆虫の脱皮ホルモンであるエクジソンに着目しました。
Regulation of 20-hydroxyecdysone on the larval pigmentation and the expression of melanin synthesis enzymes and yellow gene of the swallowtail butterfly, Papilio xuthus.Insect Biochem Mol Biol. 2007 Aug;37(8):855-864.
Futahashi R, Fujiwara H.
紋様のできる直前にエクジソンを局所投与すると、黒・赤・緑などの着色が阻害され、投与した部分がのっぺらぼうになったアゲハの幼虫が現れることが分かりました。このような個体では、色素合成に関わる遺伝子の発現が著しく低下していました。これは、脱皮前にエクジソンの濃度が一時的に上昇して再び下降するというパルス状の変動をすることと関連しています。脱皮のときに発現する遺伝子は、このエクジソンのパルス状の変化に応じて発現することが知られていましたが、アゲハ幼虫で色素合成に関わる遺伝子も同じような制御を受けていたのでした。エクジソンの濃度が下がってはじめて遺伝子が発現するので、脱皮直前に着色が起こることが分かったのです。
それではなぜ終齢幼虫になる脱皮のときだけ、その発現パターンが大きく変化するのでしょうか。その原因をつかむヒントは、このエクジソン投与実験から、ある日偶然にも得ることができました。それまでは、脱皮の直前にエクジソンを加えていたのですが、その日はたまたま脱皮するかなり前にエクジソンを投与してみました。処理したアゲハは翌日には脱皮期に入ったのですが、さらに翌日5齢幼虫に脱皮したところを見て驚きました。それは、4齢幼虫とそっくりな鳥のフン型の5齢幼虫だったのです。
これはどういうことなのだろうと思って、次に4齢幼虫のいろいろな時期にエクジソンの投与を行いました。その結果、4齢になってからエクジソンを投与する時期(次に脱皮する時期)に応じて、5齢幼虫の紋様が4齢型から5齢型まで連続的に変化することが分かりました。このことは、4齢幼虫の間に何らかの因子の状態が連続的に変化していることを意味すると考えました。そこで今度は幼若ホルモン(JH)に着目して実験を行いました。一般的にJHの濃度が高い状態でエクジソンのパルスが生じると幼虫から幼虫へと脱皮し、JHの濃度が下がった状態でエクジソンのパルスが生じると蛹へと変態することが知られています。ひょっとしたら、アゲハはJHの濃度がほどよく下がったときに脱皮すると終齢幼虫になるのではないかと考えました。
それならばJH処理することで鳥のフン紋様の5齢が現れると期待したのですが、予想に反してJH処理を行ってもほとんど変化は見られませんでした。最初は落胆したのですが、JHに関する論文を読むうちに、多くの場合JHの作用する時期には特異性がある(ある特定の時期にJH処理を行う必要がある)ことに気づきました。そこで、4齢になってからさまざまな時期にJH処理を行ったところ、4齢になってすぐの幼虫にJHを加えると高い割合で鳥のフン型の5齢が現れることが分かりました。
Juvenile hormone regulates butterfly larval pattern switches.Science. 2008 Feb 22;319(5866):1061.
Futahashi R, Fujiwara H.
農生研の塩月孝博先生と篠田徹郎先生の協力を得て、アゲハ幼虫のJHタイターを測定したところ、実際に4齢になってからすぐにJHのタイターが減少することが確認できました。若齢幼虫と終齢幼虫の形態の違いは大きく3つあります。終齢幼虫の緑色、若齢幼虫のイボ状突起、そして全体の黒色部のパターンです。cDNAサブトラクション法によって、終齢幼虫の緑色に関わるビリン結合蛋白質(BBP)、若齢幼虫のイボ状突起に関わるクチクラ蛋白質(HCP1,HCP2)を同定し、JH処理による変化を調べたところ、JH処理個体ではBBPは発現が抑制され、HCP1とHCP2は若齢幼虫同様強く発現していました。さらに、以前報告した黒色紋様に関わるメラニン合成遺伝子の発現パターンも、JH処理によって若齢型を保つことが分かりました。この結果から、JHの濃度依存的にさまざまな遺伝子の発現パターンが一斉に切り替わり、鳥のフンから緑の隠蔽色へと劇的に変化するモデルが考えられました。発生途中に幼虫の紋様を変化させる種類は多く見られることから、JHによる幼虫の紋様変化の制御は一般的な現象ではないかと考えています。
一般的にJHはエクジソンの影響を修飾すると言われますが、アゲハ幼虫の紋様の場合もエクジソンの刺激によって紋様を作る遺伝子が発現し、JHがその発現パターンを調節していたという点は興味深く感じています。なお、鳥のフン型になったアゲハはもう1回余分に脱皮して6齢幼虫(通常の5齢と同じ紋様)になりました。この結果は、実はカイコなどで4齢にJH処理を行うと6齢幼虫が得られるという結果とよく似ています(カイコでは紋様変化は生じませんが)。興味深いことに、カイコの結果でも4齢になって早い時期にJH感受期があるようです。また、タバコスズメガでは幼虫から蛹になるときに、JH以外に栄養条件も重要であることが報告されています。アゲハの幼虫は、餌条件が非常に悪いとたまに6齢になることがあるので、蛹への変態と同様にJHと栄養条件の間にも何か接点がありそうだと感じています。アゲハの幼虫は、紋様の劇的な変化という分かりやすい表現形があるので、JHの作用を調べていく上で非常に有用なモデルとなるのではないかと考えています。
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これまでの展開と共に説明して頂いた。どうもありがとう。
いいなあ。私もいつの日かBreviaに載せてみたいものだ。投稿規定には次のように書いてある。
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