さしたる構想もなく始めてしまったシリーズの最終回です(前回は
こちら)。
かくして、村人達を困らせていたオオスズメバチの巣を発見、単独で撃滅した私は用意されていた宴へ招待されました。↓少しだけお時間を頂けないでしょうか。クリックすると10点入ります。

その研究施設では数人の学生が住み込みで研究をしてた。モグラの類の研究をしているKさんの他にオオサンショウウオの研究をしている人、なんの研究をしていたかは忘れたが哺乳類の頭骨をこよなく愛している女性など、濃いメンバーが揃っていたのだ。聞けばY大のY先生も学生時代はここで糞虫の研究をしていたとのこと。
何も無い山中で、研究に打ち込む彼らは、私にはハーミットのように見えた。どの方も自分の研究対象を深く静かに愛している様子。オオサンショウウオの研究をしている人など、フィールドによっては自分の実験材料を見るのも大変だという話だった。彼はまた、ナイフを愛しているとのこと。彼がみせてくれたお気に入りのナイフは芸術品のような雰囲気を纏いながらも実用品としての芯をしっかり感じさせる逸品にみえた。
Kさんは私が出会ったことがある人の中でも屈指の「豪胆な人」だ。ここに書いたらまずいような愉快なエピソードを沢山聞いている。私も何回か豪胆さを目にしたが、木に登ったことくらいしか書けない。数回しか会ったことのないKさんのもとを訪れる気になったのも、何かとても楽しいことが山で待っている気がしたからだ。そういう意味ではKさんは趣向を凝らしたイベントを用意してくれていた。
返す返すも巣が見つからなくて残念。研究施設には技官さんがいて、その方が「蜂狩り」の中心人物のようだった。彼は酒宴が始まると、新鮮なクロスズメバチの仔を炒めて出してくれた。缶詰の蜂の仔しか食べたことのない私は蜂の仔をあまり美味しいと思ったことがなかったのだが、技官さんが出してくれたそれは全くの別物だった。肝のような濃厚な味。こってりしているけれど、しつこくない。少し濃い目に味付けされた蜂の仔は酒のつまみとして最高だ。
昼間は巣を見つけられなかったオオスズメバチの仔について尋ねてみた。オオスズメバチの仔を食べるという話は聞いたことがなかった。味については好みが分かれるかもしれないが、消化管を取り除けば、クロスズメバチより美味しいと評価する人も多いとのこと。消化管を取り除くのは手間だろうが、その手間をかけて、そしてクロスズメバチとは比較にならない危険を冒してでも食べる人がいるという点でもって私はその美味しさを想像したした。是非、
危険は冒さずに一度、食べてみたいものだ。
そういえば、同じ
Vesapa属でもヒメスズメバチなんて大きさもなかなかだし、幼虫の餌がアシナガバチの仔なので美味しいかもしれない。攻撃性も弱いのは大きな魅力。今度挑戦してみようかな。
私が昆虫の研究をしているということで、技官さんはクロスズメバチのことを私に尋ねてきた。この辺の人は春先に巣作りを始めた女王を捕らえてきて飼育を開始し、昼間見たような庭先の箱でコロニーを大きくして、秋に幼虫を食べるとのこと。巣箱はいくらでも置けるし、ミツバチと違って餌は準備できるので、生産の際の制限要因となるのは春の越冬女王の確保であるらしい。確かに山で沢山の巣を見つけるのは難しいだろう。
そこで、秋に管理下にある巣から羽化してくる沢山の新女王を交尾させた後で越冬させ、春先に巣作りを始めさせたら、大量の巣が確保できると考え、色々試しているそうだ。色々工夫をして、交尾まではさせることができるようになったし、冬越しもさせられるようになったが、越冬後の女王が巣作りを開始しなかったり、開始してもすぐに死んでしまうので困っているのだ、と技官さんは言った。
「どうしたらいい?」
と聞かれても、
「今は、わからないですね」
と答えるしかない。
ただ、試してみたら上手く行く可能性の高い方法が思い浮かんだので、その方法を技官さんに伝えた。すると、
「博士課程は名大に来なさいよ」
と技官さんは言う。一緒にここで蜂の研究をしようと。指導教官は探してくれるとのこと。さらに、
「毎日、日本酒二合と、鹿の肉を出してもいいぞ」
と技官さんは真顔で言うのである。
回想記でも書いているように、もともと蜂から昆虫学に入ったのだし、修士課程までは休眠の研究をしてきたので(この話はまた回想記の方に書きます)、その二つを組み合わせて研究ができるというのは魅力的な話に聞こえた。しかも酒二合、鹿肉付き。クロスズメバチの仔も食べられるだろう。
しかし、少し考えて申し出を辞退することにした。その時には既に博士課程時代の恩師に出会っていた。そして、神戸大に進学することを、もう一つの選択肢と大分迷った末に決めた後だった。
その後も色々面白い話を聞き、美味しい特殊焼肉などもご馳走になりつつ、酒を呑み続けた。やがて、夜は更け、呑み会はお開きに。
翌朝は刈り取った草の巨大な塊に、シートを巻きつける作業のお手伝い。冬への備えだ。山の冬は急ぎ足でやってくる。
もう一晩、施設に泊めて頂き、施設を後にすることにした。その際、ゲストノートに
「また遊びにきたい」
と書いたが、その希望は適っていない。
意外だったのはその後、後輩のYさんがそこで研究生活を始めたことだ。たまに会って話を聞くと、楽しく生活している様子。
冬は厳しいだろうが、暖かくなったらまた行きたいなあ、と冬に想い、毎年暖かくなると忘れるということを繰り返している。
...。
生存本能が働いているんだろうね。
↓なかなか3位になれません。応援宜しくお願いします。